ここだけの話〜中倉宏美3〜
 
気持ちは熱かった
----プロになっていきなり女流王位戦でリーグ入りして、最短で1級昇級したよね。
これはぐいぐい行くんじゃないかって(笑)。
そのころが一番勉強してたかもしれない
ですね。高校時代から21、22歳くらいま
で、対局も沢山つくし、やればやる ほど
強くなれるんじゃないかって思ってました。
高校の授業が終わってそのまま調布の
将棋センターに通うのを毎日続けてて。
私は それまであまり定跡とかシステム的
なところを勉強してこなかったので、そこ
で序盤を勉強したり、、。でも23、4歳
ごろになって 正直、、、遊んだかなって
いうのはありますね。
----遊んだ?
高校2年のときにプロになって、それから
3年くらいは今はやる時期だって感じで
勉強が 続いていたんです。それが、まあ
まあ普通に生活できるようになったら 馴
染んじゃったようなところがありました。
仕事の楽しさもあったりして。
----気持ちが切れちゃった?
気持ちは熱かったですよ。今は遊びも落ち着いた(笑)ので冷静に振り返れるん ですけど、
空回り的なところがあったかもしれないですね。熱さがあっても結果を 伴わないし。気持ち
はあるのにうまくいかないし・・・だんだん勝ったり負けたりの 生活になって。土・日に研究
会や道場に行ってたのが、 週末に友達と遊んだりして二日酔いで行けないとか(苦笑)。
丸一日将棋をしないなんて考えられなかったのに、そういう日も結構でてきて、、
自己管理があまりできてなかったですね。
 
かっこよk、お洒落に
----木村(現・竹部)さゆりちゃんと3人で親睦会の実行委員をやったのっていつだっけ?
21歳のころですね。
----できたばっかりの女流棋士室に主みたいに居座って…今考えたら若手3人だけで
   よく やったよね。作業のあとご飯食べに行って「美夏さんもあきらめちゃだめですよ、
   頑張り ましょう」とか言われたなあ(笑)。
熱かったですね(笑)。本当に熱いMAXのときって感じで。
----私が「でもみんながただ指すだけじゃこの先どうなるわけ?」みたいなこと言ったり。
すごい新鮮だったですね。そういう感じ、自分の世界になかったから。
 
 
----宏美ちゃんはその時から「将棋とか将棋界をもっと『いいな』『かっこいいな』と思
   わせるように したいんですよ」って言ってたよね。具体的には?
将棋をおしゃれな感じに(笑)。日本文化だから、将棋まつりに行くのも歌舞伎や ミュージカルを見に行くようなイメージで堂々と言えるような。
----ああなるほど、「あら、いい趣味ね」みたいな?
そんな感じ。何とか暗いイメージを変えられたら…具体的にどうしたらいいかは難しいんですけど。
----それを意識して自分で実現しようという意気込みもある?
意気込みはありますね。バイクをやったりするのもそういうのが心のどこかであるのかも しれないです。「将棋指しっぽくないね、けど将棋指しなんだね」って思われたい。
----ビジュアル的にただ見栄えがいいという意味じゃなくて、将棋というものを全体的に
    「いい感じ」って雰囲気に持っていきたい?
そうですね。ステータス的にもそうですし、やっぱり若い人にも将棋を親しんでもらうためには
そういう雰囲気というか、空気が重要な気がしますね。
 
痛みは見せたくない
----今まで女流棋士をやってきて、一番嬉しかった
   とか達成感を感じたことは?
よく地方に行くんですけど、ちょうどテレビに出てい
るときに、将棋ファンのおじいさんが 「こんな有名人
に会えて嬉しい」って涙ぐんでいたんですよね。それ
がすごい嬉しかったです。 忘れられない。そういう
ふうに思ってくれる人がいるんだって。
あとは将棋を負けて落ち込んで いたときに、近所
に住んでいるファンの方から「一ファンで陰ながら
応援している人も いるということを忘れないでくだ
さい」って手紙をもらったこともすごく嬉しかった。
----人からの評価で上がったり下がったりする
   タイプ?
気にしちゃうタイプですね。他からの評価とかどう
いうふうに見られてるかとか気にしちゃうんです。
----熱く、かっこよく、熱血でいけばいいじゃない。
まだ大丈夫かなぁ。でも焦っているっていうか、
いつまでも熱く上を目指してとか言ってても、 もう
女流棋士になって10年であんまり結果も出して
ないと「おいおい」って言われちゃうかなって。
もう駄目でしょって言われたりもするし…いちいち
反応しないようにしようとは思うんですけど。
----自分で自分を信じられる限りはやっていける
   ものね。でもそれが難しいけどね。
そうですね、気持ちの立て直しをうまくしていき
たいんですけど。
----だって負けるってやっぱりしんどいよね。
そうなんですよ。なんなんでしょうね、あの挫折感
は。
----成績が上がらないと「もうそれに慣れている
   んでしょ」みたいに言われたりするけど、負け
   に慣れるのはありえないけどね。
痛みは一緒ですよね、誰も。でも悔しさをあまり
出したくない感じはあるんですけど。負けてすごく
荒れて、 他の人にも当たってたりするのを見て、
あんまりいいもんじゃないなと思ったから。みんな
苦しい痛みは 同じだけど、黙って帰れる人が精神
的に強いのかなと。荒れたりするほうが楽なんで
すよね。飲んで同情 されたりするほうが。
----じゃあ、負けた日はじっと家に帰りますか?
最近はそうですね。
----前は飲んだりしてた?
そうですね、勝っても飲んでたりしてたから(笑)。
勝って家に帰ってきて着替えてまた出掛けたり。
 
 
情熱が無くなったら辞めます
----将棋界に失望して辞めたいとか、将棋が辛いから辞めたいと思ったことはない?
プロになってからは…辞めたいと思ってまたモチベーションを上げて、の繰り返しですね。
タイトルを獲れないってあきらめたら辞めたいと思うんです。やってる 限りはタイトルを
狙っていきたい。お小遣い稼ぎ的な感じでやるのは無理だろうなと思います。 経済的
に辞められるかどうかは分からないんですけど、情熱が無くなったら辞めると思うので…
でも負けるたびにけっこう挫折するんです。
----役員を2期もやったり、みんなからも信頼されていると思うし、宏美ちゃんは別に
   役員になって なくてもみんなのために動くタイプだけど、将棋だけやってればいい
   って人をうらやましいなと 思ったりすることはある?
ハハハ、そうですねえ。でも将棋だけやってればいいとは思わないですね。
----対局前に葛藤を感じたりすることは?
結果を出せないとそういうふうに悩んだりすることも…でも、うらやましいというよりも、
対局だけ やってればいいという考え方はなんかおかしいって思う。対局だけやってい
ける のは誰のおかげなの?って。 でも、そう思っちゃうのはたぶんまだ活躍できてい
ないからで、自分のせいだと。活躍してたら色々な ことをやっててもそういうふうには
感じないだろうし、頑張れば両方できるかなというか。 仕事量も、大したことはないと
思うし。
----もし、自分が好きなようにしていいって言われたら、何もしないで対局に専念して
   結果を出すと いうよりはいろいろやって全部成果を出すっていうのが理想?
理想ですね。だから欲張りかもしれないですね。やっぱり魅力的な人になりたいとい
うか、 丸一日勉強してます、、みたいな人にはなれないし、傍から見てそういう人 が
本当に魅力的な人かっていうと、そうでもないだろうって。
----やってないふうに見せて結果を出すっていう。
ええ。「勉強してる」とか言う人はあんまり。
----ある意味それが当たり前だからね。勉強してるからえらいっていうのは変だよね。
   勉強してても してなくてもとにかく結果を出すのが大事な世界だから。
そうなんですよね。
----じゃあ、あんまり研究会をいくつやっていますとかは言いたくない?強いて言わない?
そう…ですね。でも私は遊んでいるように思われてるから大丈夫(笑)。
 
 
インタビュー・文/大庭美夏  
写真/藤田麻衣子