ここだけの話〜石高澄恵2〜
 
----これは宝物ファイル?
そうですね、思い出の。
----この新聞の切り抜きは・・
これは青野先生に特集していただいたんですよ。北海道新聞に、北海道出身の棋士の
紹介ってことでドキュメンタリー的に。
----すごいですね。全10回、ちゃんと取材して書いてくださってますねえ。
直接お話もしましたし、いいところ取りで書いていただいたんです。
----それからこれは?
大山先生の絶局の記録を取ったんです。初めて指した棋士も大山先生で。まだ育成会
にも入ってなかったころだと思うんですけど、函館の夏の将棋祭りに大山先生が来たん
ですね。そのとき2枚落ちで指してもらったんですよ。
 
 
 
トップは読みの量が違う

----今までで一番うれしかった対局に第5期女流王位戦挑戦者決定戦の対中井戦をあ
    げていらっしゃいますね。挑決出たときにはどうでしたか?リーグの勢いとか。
途中林葉さんに勝てたんで、これはもしかしたらいけるかなっていうのはありましたねえ、
手応えが。(→リーグ表)
----そのときすごい勉強されてた時だと思うんですけど、すればするほど棋力が伸びてる
    って実感できました?
棋力伸びてるというか、とにかく一生懸命やればあがれるっていうふうに思ってたんで。
ただ、まだトップには届かないなっていうのはこのころにはもうわかってたんです。中井さ
んに勝てる自信はあんまりなかったんですね。
----どうしてですかね、それは。
まず終盤力が違うんですよ、棋譜見てるだけでも。ただ一番勝負だから、とにかく序盤で
作戦勝ちしてそのまま押し切る方針で、序盤についてはずいぶん研究していったんです。
----なるほど。
中井さんは相掛かりは受けてくれるタイプだったから、先手になったら相掛かりって決め
てたんですよ。その通りになって、考えてきたとおりに進んでいったんで、序盤もとばして
時間も使わずに、お昼の時には(消費時間が)1時間近く差がついてて、形勢も少し優勢
を意識してたんですよね。だからもしかしたら勝てるのかなってその時は思ったんですけ
ど、終盤に入ってからやっぱり、終盤力を発揮されてしまいまして。でまた感想戦が強い
んですよ、よく読んでるっていうのがわかりました。そんなとこまで読んでるのかっていう
の聞いてると、読みの量がまず違うって思いました。でもまあここまでいけたからあと一
息っていうのはありましたね。
----そのときは特対(特別対局室)でやったんですか。
特対ではなかったですね。ほかにも対局があった状態で。でも観戦者の方がたくさん来
られるんで、大きな勝負を戦ってるっていう充実感はありました。入れ替わり立ち替わり
いろーんな人が見に来られて、そういうのはうれしかったです。
----勝ったらタイトル戦だよ、とか思いました?
思いました。タイトル戦っていうのと、あと昇段の一局だったんですよ、挑戦者になれば
二段になれるんで。
----具体的に思い出に残る局面ってありますか。
やっぱり、まさしくこれ(切り抜き)に載ってるこの局面ですね。
 
  
 第5期女流王位戦挑戦者決定戦
(新聞三社連合主催)平成6年8月24日
▲横山澄恵初段-△中井広恵名人より
 
相掛かりから▲2七銀〜3六銀という横山
の作戦が奏功し、中盤見ごたえある応酬
の後、 横山リードで終盤を迎えた。
特に残り時間は▲横山1時間22分、△中
井7分と大差がついている。
しかし中井もさすがの終盤力を発揮し、図
の局面では▲4一銀△同銀▲同龍△5二
銀▲7二銀△同金▲8一龍とからむ順が
唯一の寄せ。本譜は▲7二銀としたため、
以下△同金▲同桂成が詰めろにならず、
△4七馬と引かれて大逆転となった。
(→棋譜)
 
 
将棋に関しての悩み

あとはまあ、女流プロ名人位戦でA級にあ
がって勝ち越したり、このあたりが一番よ
かったんですよ。平成の5年から7年くら
いですね。勝ってる間はやっぱりねえ、あ
と一息っていうので勉強にもいっそう身が
入るっていうか。
----気持ちも張りがありますよね。
そうなんです、充実してましてね。結果が
出なくなってくると・・石橋さんとか、このあ
たりから出てきてるんですけど、この時は
まだA級にいたからいいんですけどね、伸
び盛りの矢内さんが来たあたりからです
かねえ、だんだん成績が落ち目になって
きたんですよ。

photo/週刊将棋
----うーん。
矢内さんと練習将棋よくやってたんですけど、全然勝てなかったんですよ。矢内さんが
まだ入ったばっかりで、教えてあげようくらいの気持ちだったのに勝てなくて。よし次は
勝つぞって思ってたらまた負けて、この人強いな、とか思って。
----年下で、後輩で、勝てないっていうと・・
当時は矢内さんも女流棋戦であんまり勝ってなかったんですよ。だけど、なんか強い、と
思って、そのあたりから注目はしてたんですけどね。でまあ・・その辺りからですかねえ。
----だんだん結果が、伴わなくなってきて。
結果が、そうですね。
----気持ちとして、将棋に向かうときに変化ありましたか。
今までは上を目指すことだけだったのに、降級の心配をする機会の方がだんだん増えて
きて、で、トップとの実力差も全然縮まってない、むしろ開いてるんじゃないか。ライバル
がどんどんどんどん上に行って、若手が伸びてきて・・そういうとこからちょっと、将棋に関
して暗い気持ちになってきて。
----つらいですよねえ。
ええ、そのあたりから、もしかしてタイトルとれないのかな、って、思い始めて、将棋に関し
ての悩みが出てきて。
----でもあんまりそれで、やーめた、っていう感じは・・
やーめた、ではないんですけどね。
----やっぱり勉強は続けてらしたですよねえ。
勉強はしてましたけど、でも将棋の勉強以外のことがいろいろ、人のことが気になりだした
っていうんですかね。今までは自分のことだけだったのに、よけいなこと考えはじめたって
いうか。
----女流棋界全体とか?
そうですね、そういうことが気になりだしてから、あんまり将棋一途、っていう感じではなく
なったんですね。
 
 
後輩の面倒見るのが好き

----女流育成会の幹事を引き受けられたのはそのころですよね。自分自身の将棋に対
    してすごく悩む面があって、でもその後進の育成の仕事っていうのはどうして?
意識が上から下をむき始めたくらいから、普及関係っていうか、そっちのほうもちょっと興
味がでてきたっていうんですかね。まあ、後輩の面倒見るのはもともと好きでしたけどね。
----だいたい、新女流は横山さんのお世話になるのが定跡、みたいな感じでしたよね。
    同じ研究会呼んでもらったり。
ちっちゃい子がいると、大丈夫かな、と思っちゃうんで。
----みんな頼りにして、でその子たちが居場所ができたころにまた新人が来て。
そうなんですよ。いつものパターンでいくと、だいたい声かけるのは小中学生なんですよ。
で考えてみたら、その子が二十歳を超えたぐらいから、離れていくんですよ。
----(笑)二十歳越したみんなも、その時代のことは感謝してると思いますけどね。また
    後輩の面倒を見てる姿を見て、わたしもああしてもらって助かったんだわって。
それはいわれることありますね、昔お世話になったって。それだけで充分です。
----充分ですか?わたしならやってられないけど(笑)
そんなことないんですよ。だって自分がそのとき楽しいんですから。いっしょにいて研究会
したり、いろんなお話しして、それが楽しい。
----へえええ。やっぱり子どもが好きなんですね。
好きですね。純粋な子が好き。見ると応援したくなるんですよ。今はもう女流棋士だけど
真梨花ちゃんなんかかわいくてしょうがないですね。真梨花ちゃんとか環那ちゃんとか村
田さんとかね、あの辺は応援したくなるタイプですね。
育成会員とか見ててもほんとに純粋ですよね。汚れた考えがないんですよ。金儲けしよ
うとかそういうんじゃなくて、ほんとに将棋が好き!ってやってるじゃないですか。それで
いいんじゃないですか、最初は。
 
 
----幹事のときに、ここはこうしようとかこれはしないでおこうとか、決めてることはありま
    したか。
基本的には、なんか間違えた道へ行こうとしてたらそっちじゃないよ、って感じでちょっと
だけアドバイスして、あとはまあ自分で考えなさいっていう感じで。
----じゃあ、教え込むというよりは、自分たちで。
ええ、自分たちでね、少しずつ覚えていけばいいかなーと。将棋が好きっていうことだけ
でいいんじゃないかなっていう。最初っから礼儀がどうとか、まあそれは少しずつ教える
んですけど・・むずかしいですよね。わかんないんですよ。幹事やってても、どう接してい
いのかね。
----プレイヤーとして壁に当たってた時期に次世代を見るのって、つ らい面もあるような
    気がするんですけど、でもいつもうれしそうな顔 されてましたよね、有望な後輩を見
    てる時は。
どんどんレベルが活性化してくのはいいんじゃないですかね。低いところで戦っててもしょ
うがないですからね。
----全体が、切磋琢磨してあがっていって。
そうそう、その方がいいと思うんですよ。ライバルがいれば、その人を越えようって思うん
ですよ。逆にライバルがいないと、一緒に戦う相手がいないから、自分一人で悩まなきゃ
いけない。そういうライバルみたいなものがやっぱり・・斎田さんとかはね、育成会も同期
だったから目標でしたけど、どんどん上いっちゃったから、手が届かなくなっちゃって。同
じくらいで少しずつ、一緒にあがっていくようなライバルがいたらもっとよかったかもしれま
せん。矢内さんと千葉さんとかね、うらやましいですね、ああいう関係が。
 
 
実は親睦会に反対!?

----そうやって次々若手とつきあってるから、ずっと雰囲気が若いんですかね。ノリって
    いうか、話題とか。
ノリが若いっていうか、難しい話が苦手なんですよ。政治的な話されるとほんとにわかん
ないんですよ。だから親睦会の委員とかもねえ、うっかり引き受けちゃったんですけど。
----うっかりなんですか(笑)
うっかりですよ完璧に。委員なんて絶対やる気なかったんですよ。
----だってもともとあんまり親睦会賛成じゃなかった・・
そうなんですよ。反対っていうか、やるのはやってもいいんだけども、裏方でお手伝いでき
れば、というぐらいの感じで、やらないならやんないほうがいい、と思ったんですけどね。で
も総会の時にね、真梨花ちゃん隣だったんですよ。で真梨花ちゃんを古河さんがスカウト
してて、伝言ゲームみたいなのが来たんです。
----あの笑顔で「横山先生もやりましょう!」みたいな?
そう、「いっしょにやりませんか」「うん(にっこり)」って。それで なんか引き受けちゃって。
 
 
----(苦笑)でもそうやって親睦会に全面賛成、じゃない人が実行委員 やるっていうのも
    意義がある気はしますけどね。
まあやるのはいいんですけど、むずかしい話はほんとに苦手なんですよ。はがきの切手
貼りとか、封書にいれたりね、そういうのは好きなんです。だからそっち担当でお願いしま
すっていってあるんです。
----でも今回の実行委員は、寺下さんとか古河さんが経験あるから主導権取ってばりば
    りやっていく感じで。
そうなんですよ。伊藤明日香ちゃんなんかもしっかりしてるんで、非常 に楽ですね。
----どんな感じになりそうですか、今度の親睦会は。
まだそんなに細かい話はしてないんですけど、指導対局と席上と、ほかもいつものような
感じですね。今までの反省点なんかも参考にしながら、 シンプルな感じでお客さんに満足
してもらえるような会にしたいね、とみんなで話しています。 >>>part3に続く