ここだけの話〜石高澄恵3〜
 
 
声かけちゃいけない別世界

----将棋を覚えたりプロを目指し始めたのが遅かったことで、ハンディに感じたりしたこと
    はありますか。
多少はね。もっと早く覚えてたら奨励会も目指せてたかもしれない、とは思ったことありま
すね。
----できることなら棋士を目指してみたかったですか。
覚えたときにはもう奨励会考えられるような年じゃなかったから、あこがれましたね。
----研修会にも入ってらっしゃいましたよね。
平成元年くらいからですね。それから5年くらい、Aクラスにあがるまでいました。
----楽しかったですか。
楽しかった、ですかね。雑誌に成績が載るのを励みにしてました。
----当時は女性会員もたくさんいましたね。
そうですね。谷川(治恵)さん、高群さん、本田さん、船戸さん、大庭姉妹、あと木村(竹
部)さん、矢内さん、碓井(千葉)さんも一緒でしたね。
----いたけどトイレの中だったんですよね(笑)。(※将棋会館4Fの女子トイレには手洗所の前
   に2畳弱のスペースがあり、 研修会や奨励会の女性会員はそこをたまり場にしていた)
そうそう(苦笑)、対局終わったらトイレ。弁当もトイレで食べてた。
----幹事の先生に「そんなとこで食べてないで出ておいで」っていわれてもほかにいる
    場所なかったし、そういう時代でしたよね。
男子と女子、みたいなね。男子クラス女子クラス、みたいな。
----同年代でも、友だちになるっていう発想自体がなかったですよねえ。
ない、ないない。そういうのは昔なかったですね。声かけちゃいけない、別世界っていう
か。
----女の子同士、トイレでのおしゃべりが楽しかったりもしたけど。
声がすごい大きいから、みーんな筒抜けなんだよね、実はね(笑)。
----桂(連盟4Fの控え室)なんかも入れなかったですよね。3階(事務局)にもなかなか
    居場所がなかったし。
順位戦の記録もね、前はやらせてもらえなかったですよね。
----女流棋士室ができたり、すごい進歩ですよね。だからわたしは訴えたいんですけど
   … 今が普通じゃないんだ、ここに来るまでには先輩の苦労があるんだぞって (笑)。
まあねえ。
----今の若手がうらやましくないですか。
うらやましいですよ。
----お友だちになったり研究会誘われたりってうらやましいっすよねえ。
時代が変わったって感じですよね。
 
 
 
弟子のこと

----お弟子さん(佐藤裕美元育成会員)のこともうかがっていいですか。
弟子はもともとひとりはとりたいなと思ってたんですよね。彼女は非常にまじめだし礼節も
しっかりしてるし、それでいてしゃべってる感じがすごく楽しくて、例会のあとにお話ししたり
していて。
仙台出身で中川先生(大輔七段)にお世話になってるってことだったんで、普通だったら
中川門下かとも思ったんですけど、途中で育成会員全員師匠をつけないといけなくなった
ときに、先生の門下になりたいっていわれて、そうですかってことで弟子をとりました。
----師匠の気持ちも大変なものがあるんじゃないですか。応援しても、結局本人が勝た
   なきゃいけないわけだし。
まあそうですね。彼女はすごく将棋熱心なんですけど、非常に心が優しくてですねえ・・。
例えばスランプの子と対局して、相手が悲しそうな顔してると、その人の気持ちになっちゃ
って厳しい手が指せなくなるとか、そういうところもあったんですね。
----対局中にですか?
ええ。将棋は強いんだけど、勝負としてはそ
ういうところがあったから大丈夫かなって・・
気持ち的にね、ちょっと優しすぎるんですね。
あと家が茶道の先生で非常に礼節面が厳
しくしつけられてるから、ほかの育成会員た
ちの態度、例えばざわざわしてたり、たまに
うっかり床の間に腰掛けてしまう子がいたり
そういう細かいことが気になって雑念が入っ
ちゃうから・・普通は将棋だけやってればい
いんだけれども、感受性が豊かでいろいろ
気づいちゃう、対局中に相手の気持ちまで
気づいちゃう。そういうところから本人がいろ
いろ悩んで。
----確かに、そういう気持ちだとプロとしては・・
結局、本人から今回でやめたいってことを急にいわれてね、びっくりしたんですけど、でも
彼女の気持ちをいろいろ考えていくうちにね、それもま あしょうがない選択かな、と。今後
これを生かす道もあるからね。
----その性格を?
プロとしては確かに、もしなれたとしても上を目指してやっていく自信がない、将棋指して
いて楽しいと思わなくなってきた、そういうふうにいわれたから・・まあしょうがないと。
でも今でも、子ども教室やったりしてるんですよね。ですからよかったと思いますよ。やめ
てからすごく表情が明るくなったし。
----今も大会にでてますしね。
大会に出て、逆にほんとに将棋楽しくなったっていってるから。
----いまだに赤線引きながら将棋の本読んでるらしいですね。
そうなんですよ。
----そういうの考えると、将棋が好きでも、女流棋士向きな人とそうじゃ ない人っている
    んですかね。適性っていうか。
相手が泣こうがわめこうが「(冷たく見下ろして)何泣いてるわけ?」み たいな。
----うふふふふ。
そういう感じでね、やれる人が向いてるんですよ。
----そういう部分もないとね。
多少ね、気が強いとこもないとだめなんですよね。
----また、お弟子さんとってみたいですか。
そうですね、まあ幹事もやめちゃったし、あんまりそういう機会があるかわからないですけ
ど。最近、中学生の大会とかアマチュアの大会で函館とかね、北海道の子がけっこう活躍
してるんですよね。ちょうど高校(函館白百合)の後輩に当たる子もいて、一度会ってみた
いなと思ったんですけど、機会がなくて。
----地元が同じだったりする子が、もし希望してこられたら・・
北海道じゃなくてもいいですけど、まあ何か縁があれば、とは思いますね。
 
 
初公開!ふたりの出会い

----じゃあそろそろ旦那さんにも入っていただきましょうか。出会いはボウリング場だった
    そうですけど、どっちが先に声かけたんですか。
(正樹さん)ぼくですね、はい。うまいですね、って。
----おおー。で、澄恵さんはなんていったんですか。
え?・・いやあそうでもないですよ、って。
----ほほう。
(正樹さんも)今日はあんまり調子よくなかったけど、いいときは20 0くらいいくんですよ。
----おふたりとも上手ですよね。そもそも、
    出会ったのはいつだったんです か。
去年の9月くらいですね。
ボウリング場で、近くで投げてて声かけられ
てたわいもない話をしてたら、二人とも北海道
出身っていうのがわかって、北海道ネタで「あ
ーそうなんですかー」みたいになって。
そのあと音楽の話とか・・なかなか渡辺美里
で盛 り上がれることってないんですけど。
----あはははは。
なんかこう・・おもしろいなあと思って。話が合
うから。それがきっかけ、 ですね。
----じゃあ、出会ったときから意気投合って
    感じで。
そうですね。
それからはたまに会って、ボウリングがメイン
でしたけど、あとはカラオケとか、ラーメン食べ
にいろんなところつれていってもらったり。
----カラオケはどの辺が好きですか。
ミスチルとかB’zとか好きですね。
----世代が合うカラオケっていいですよね!
そうそう、あと渡辺美里とかね、BOOWY、プ
リプリとかね。旅行も好きで、秘湯巡りが好き
なんですよ。で、スタンプを集めてて、10個
集まったからサービスで行けるんだけどって
いわれて。
----じゃあそのときに結婚を前提に、みたい
    な感じになって?
結婚を前提にというか、「一緒に暮らしません
か」って。だから、同棲って意味だと思ったん
ですよ、当然。
----当然かどうかはちょっとわからないけど(笑)。
それはありがたいお話ですね、みたいな感じだったんですけど、そのあと急 に「あの入籍
は3月がいいと思うんですけど」っていわれて。
----ええーっ。
「え、ちょ、ちょっと待ってください、入籍ですか、いきなりそんな話なん ですか」っていうこ
とで。それが11月で。
----11月!9月に会って11月・・そういうの将棋界的には光速の寄せっ ていうんですよ(笑)。
ああ、そうなんですか(笑)。
----何か決め手みたいなものはあったんですか。
まあ、成り行きですよね。流れ・・ですかね。
成り行きっていっても早いなあとは思いましたよ。でも、一緒に住むと家族 官舎に入れる
とかいわれて「あ、そっか」みたいな。見に行ったらすごいい い官舎だったんで、それでつ
られちゃって(笑)。
 
 
 
今となっては、これがベスト

----でも確かに、東京出てこられてずっとひとり暮らしだと、生活も切実です もんねえ。
まあ、それはありましたね。将棋の方ではかなりもう悲観に暮れてたっていうか、そういう
雰囲気なんで、家族みたいな、そういうのは惹かれましたね。
----じゃあ何となくタイミング的にも・・
タイミングはちょっと早いと思いましたけど。いくら何でも一年くらい一緒に 住んでみてそれ
からの話っていうのが頭にあったので。
----ずいぶん冷静な・・
いきなりそんな話されて、お互い知らないことも多いんですよ。まだだって、たまーに会っ
て、遊んで、さよなら、って感じなのに、そんなねえ・・豹変されたりしたらねえ(笑)。
----あははは。
テレビドラマ好きなんで、そういうのが浮かんだんですよ。今は優しいけど、 このまんまで
いてくれるんだったら文句ないけど、住むなりいきなり、とか。 でもまあ、雰囲気的にはそ
ういう風に見えないから大丈夫かなって思って。だ から同棲ってのはそういう意味でいっ
たんですけど。あとねえ、嫁姑問題とか ねえ。
----うふふふ。
だからちょっと考えたんですけど、結局はすぐお返事して「よろしくお願いします」ってこと
で。それからお母様にも会って、非常に気さくないいお母さんで、すべての問題クリアっ
ていう感じで。
----よかったですねえ。でもプロになってからって、お友だちとしたっ て将棋界の人との
    おつきあいの方が多くなかったですか。ほかの世界の方とは なかなか機会がない
    ですよね。
将棋界以外の人とのつきあいなんて全く考えたこともなかったです。今でもそ うなんです
けど、基本的に外には出たがらないんで、家でじーっとしてるのが 好きなんですよ。だか
らねえ、おもしろいもんだなっていう感じはありますよ ね。
----ご主人と会う前、結婚相手として将棋がわかるほうがいいとかわかんない ほうが
    いいとかは。
だからそれも、将棋界以外は考えたことがなかったんで。
----こうなってみたらどうですか、今となっては。
今となっては、もう非常に、よい。
----これはこれで。
ええ、これはこれでというか、これがベスト。
----おおお、これがベスト(笑)。
はい。
----そうですか(笑)。最近あちこちで仲いいですよ、幸せですよ、とか屈託 なく話してる
    から、女流棋士みんな悔しがってるっていううわさが(笑)。
結婚するまでは楽しいけども、しちゃうと「亭主元気で留守がいい」みたいな 世界になっち
ゃうってイメージがあったんですよ。でも、それは相手次第。相 手と自分次第。
----うーん、勉強になります(笑)。
だって楽しいし。
 
 
----女流棋士と将棋知らない方ってパターン初めてかな?珍しいですよね。
そうですねえ。かえって将棋のことごしゃごしゃいわれなくてすみますね。ま あ勝敗は聞
かれるんですけどね。負けたっていっても「ああ残念だったね、次 がんばってね」って感じ
で、勝ったらもうすっごい喜ぶんですよ。「次対局い つなの?次誰?」とかいって。
----女流棋士って白黒はっきりしてるっていうか、勝ったり負けたりでいいと きと悪いとき
    があると思うんですけど、だんなさんの立場からするとそういう のはどうですか。
まあ、勝てば、勝つのが一番いいですけれど、それなりにちゃんと納得いく ような戦い方っ
ていうか、負けても悔いの残らないような感じであれば、別に 自分の方からあんまりうる
さくいわないほうなんで。
前までは、運動が好きだったから、そっちの道にいったらどうだったかなとか、 ほかに才
能発揮できた道はなかっただろうかとか考えちゃうこともあったんで すけど、今はね、勝
つと喜んでくれるってことで、またがんばろうかな、と思 いますよね。 >>>part4に続く